vol.5  JAMP研究サブ解析

シタグリプチンの治療効果減弱に関わる因子の解析

●研究概要

【目的】 JAMP研究のサブ解析として、3ヶ月後のシタグリプチンのHbA1c低下効果を減弱する因子と、糖尿病治療薬の追加または増量が必要な患者の因子を検討した。
【方法】 対象はシタグリプチン治療開始3ヶ月後にHbA1c値が低下した患者である。効果が減弱した患者としては、3ヶ月後にHbA1cが低下していたが、12ヶ月後にはHbA1cが上昇していた患者と、3ヶ月以降に糖尿病治療薬の追加・増量が必要となった患者に注目し、以下の3点を検討するため解析した。(1)12ヶ月後まで薬剤を変更しなかった患者で併用薬別にHbA1c値の変化を比較した。(2)シタグリプチンのHbA1c低下効果を減弱する要因を調べた。(3)糖尿病治療薬を増量または追加した患者と、しなかった患者のHbA1c値および患者背景を比較した。
【結果】 (1)解析対象者498名のうち、12ヶ月後まで薬剤を変更しなかった369例を対象として、3ヶ月後から12ヶ月後のHbA1c変化量を併用薬別に比較したが、有意差はなかった。(2)3ヶ月後から12ヶ月後にかけてHbA1c値をリバウンドさせる因子は、喫煙と体重増加であった。(3)薬剤を増量または追加した患者(n=114)と、しなかった患者(n=384)で患者背景を比較したところ、前者は、糖尿病罹患期間が長い、年齢が低い、喫煙の割合が高い、インスリン抵抗性が高かったが、併用薬の使用割合で差はなかった。
【結論】 喫煙と体重増加が、シタグリプチンのHbA1c低下効果を減弱させる因子であることがわかった。併用薬の違いは、シタグリプチンのHbA1c低下効果に影響しなかった。糖尿病治療薬の増量および追加は、併用薬と関連していなかった。
ヌーベルプラスRMOは、研究事務局として研究進捗管理を行ったほか、データマネジメント、解析、論文投稿事務を担当しました。


●論文筆頭者インタビュー

布目 英男 先生
メディカルプラザ篠崎駅西口

Q : 今回の研究はシタグリプチンのHbA1c低下効果減弱に関わる因子を検討しています。その意義を教えてください。
A : DPP-4阻害薬を投与すると、期待どおりのHbA1c低下効果を得られるときもありますが、一部の患者さんではHbA1c低下効果が弱まることもあります。この要因が明らかになれば、単純に増量したり、他剤を追加したりする前に、薬の効果を減弱させる生活習慣の改善など適切な処置ができると考えました。

Q : 糖尿病治療では、DPP-4阻害薬をどのように位置づけられていますか?
A : 第一選択薬として大きな役割を持つ薬剤と考えます。非専門医でも、専門医でも第一選択薬としている方が多いのではないでしょうか。低血糖を起こしにくく、併用も比較的行いやすい薬剤です。さまざまな薬剤と併用されており、エビデンスも豊富であるため、処方の際はQOL向上と血糖管理が期待できます。一方で、効果がでなかったり、弱まったりした時に、何が原因なのか、また次なる一手としては何がよいのかは、以前から興味がありました。

Q : シタグリプチンの長期投与による効果減弱や血糖値のリバウンドが起こることはありますか。
A : はい、しばしば遭遇します。今回の研究では、喫煙と体重増加がシタグリプチンの効果を減弱させる因子でしたが、このような患者さんの生活指導に、研究の結果を活かしていただきたいと思っています。

Q : 今回の解析対象498例のうち22.9%の人が治療3ヶ月後から12ヶ月後の間に、薬剤を増量もしくは追加しましたが、日常診療の感覚と比較していかがでしょうか。
A : 2割程度というと、少なく聞こえますが、人数にして5人に1人以上は多いと感じます。季節変動など、様々な因子が関係するため、一概に言えませんが、生活習慣の改善を含めた何らかの対策が必要な患者さんが、少なくとも2割いると心にとめておく必要があります。

Q : 今回の研究で、シタグリプチンのHbA1c値低下効果を減弱させる因子は、喫煙と体重増加であることが示唆されましたが、とくに喫煙が薬剤の効果にも影響することをどのようにお考えになりますか。
A : これまで喫煙は、動脈硬化を悪化させるものと捉えられてきました。しかし、喫煙が薬剤の効果に影響するという指摘は、少なかったと思います。 喫煙が現在の血糖コントロールへも悪影響を与えることは、患者さんへの強い説得材料になると感じます。

Q : 体重増加への対応で、工夫されていることはありますか。
A : 当院では毎回、患者さんは栄養士から食事指導を受けます。実際、食事指導だけでも体重は減り、HbA1c値も下がります。薬剤費がかからず、副作用もなく、効果があるからことからも、糖尿病で最も大切なのは食事指導であると思います。当院では食事指導のみで、体重や血糖を良好に管理できている患者さんが多くいます。そのため、私は初めから安易に薬剤を処方せず、食事指導で改善を試みます。
患者さんの多くは食事や生活習慣の乱れが原因で糖尿病を発症しています。まず、その乱れを治してから、治療を進めていくべきと考えています。

Q : 先生の理想とする糖尿病治療を教えてください。
A : 基本的に生活習慣の改善で治療したいと考えます。薬剤を用いるときは有効性を最大限に活かし、患者さんには気持ちよく健康寿命を全うしてほしいと願っています。糖尿病発症の原因である食事、生活習慣を整えたうえで薬剤を考慮する。これが基本にして究極と考えます。
現代は、食の欧米化だけでなく、自動車やエレベーター、エスカレーターが普及し、交通機関が発達したため、便利にはなりましたが、肥満になりやすい環境であることも意識しなければならないでしょう。駅の階段には、段数に応じて消費カロリーを記載したものもありますが、こうした取り組みを社会全体で考える必要があります。そして、全ての治療や取り組みに当てはまりますが、よい結果を出すには、何事も継続していくことが一番大切であると思います。


●原著論文はこちら