vol.3  イプラグリフロジン臨床研究

メトホルミン投与中の肥満を伴う2型糖尿病患者における
イプラグリフロジンの有効性と安全性の検討

●研究概要

実臨床において、メトホルミンとSGLT2阻害薬イプラグリフロジン併用の有効性と安全性を検証した。
方法:メトホルミンを12週以上服用しているにもかかわらず、HbA1cが7.0%以上の肥満を伴う2型糖尿病例を対象に、イプラグリフロジン50mgを1日1回、12週間併用投与し、体重、ウエスト周囲長、血圧、脈拍、血液一般検査、血液生化学検査、一般尿検査、体組成測定を行った。主要評価項目は12週後のHbA1cの変化量、副次評価項目は12週後の各種検査項目の変化量とした。探索的解析として、12週後のHbA1c変化量と投与前インスリン、アディポネクチン、HOMA‒Rとの相関を検討した。
結果:有効性解析対象33例のHbA1cは、投与前8.07%から12週後7.28%に有意に低下した。体重、ウエスト周囲長、収縮期血圧、空腹時血糖、AST、ALT、γ‒GTP、尿酸値、中性脂肪は有意に低下し、HDLコレステロールは有意な上昇が認められた。探索的解析では、12週後のHbA1c変化量と投与前インスリン、HOMA‒Rに有意な相関が認められた。因果関係を否定できない有害事象として、安全性解析対象35例中1例に便秘が認められた。
結論:メトホルミン投与中の肥満を伴う2型糖尿病例に対するイプラグリフロジンの併用投与によって、有意なHbA1cの改善と体重減少を認めた。その効果は投与前インスリンおよびHOMA‒Rが高いほど大きいことから、インスリン抵抗性を背景とした肥満を伴う2型糖尿病に対するイプラグリフロジン併用の有用性が示唆された。
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●論文著者インタビュー

下川 耕太郎 先生
医療法人社団糖祐会ゆうてんじ内科院長
下川 耕太郎 先生

Q : 今回の研究ではインスリン抵抗性改善薬のメトホルミンにイプラグリフロジンを追加投与したときの有効性と安全性を検討していますが、近年、インスリン抵抗性の高い患者さんが増えている背景にはどのような要因があるとお考えでしょうか。
A : 生活習慣の変化等により、肥満が増加していることが大きな要因と考えられます。肥満はインスリン抵抗性を惹起する最大の因子と言えます。メトホルミンだけで管理できない場合、従来はインスリン分泌促進薬やインスリンを併用しましたが、併用により体重が増加するケースが多くみられました。

Q : そうした患者さんではメトホルミンだけで血糖コントロールが難しく、併用薬の選択肢も少ないそうです。今回の研究でSGLT2阻害薬であるイプラグリフロジンを併用されていますが、この組み合わせの意義とメリットをお教えください。
A : インスリン抵抗性改善の意義は大きいと考えます。イプラグリフロジンによって体重の減少や、内因性のインスリン分泌能の改善効果も期待されます。今回の研究で、HOMA-Rが高い患者さんほどイプラグリフロジンの効果が高いことがわかりました。つまり、インスリン抵抗性が高い患者さんほどイプラグリフロジンはよく作用するということになります。このことは大きなメリットといえるでしょう。

Q : 今回の研究の組み合わせが今後、主流となると考えますか?
A : 糖尿病学会のガイドラインでは、SGLT2阻害薬は糖吸収・排泄調整系と分類されていますが、私はインスリン抵抗性改善作用の強い薬剤と考えております。メトホルミンは歴史ある薬剤であり、肥満を伴う2型糖尿病でのエビデンスもあります。SGLT2阻害薬に関しても色々とデータが出てきているところで、体重を減らすほか、血圧や脂質にもよい影響をもたらすとされています。そういった意味でも、今回の組み合わせは今後、肥満2型糖尿病治療の主流となりうるでしょう。

Q : 今回の研究では体組成を測定されていますが、そこから得られたものは何でしょうか。
A : 同じ体重であっても筋肉量が多い患者さんの場合、インスリン抵抗性が少し低いことが分かりました。また、患者さんの体脂肪率に対する意識が高まりました。体重減少は重要ですが、筋肉をつけつつ脂肪を減らすことが、より重要であることを理解していただきやすくなりました。なかには、体重が減らずがっかりしていた方も、実際は脂肪が減って筋肉が増えていた例もありました。体組成を測定することで、自身の体の状態をつかみやすくなったほか、体調管理に対するモチベーションにもよい影響がありました。今回の研究が終了後も、体組成測定の継続を希望する患者さんも多くいらっしゃいました。

Q : 今後の糖尿病治療はどのようになっていくと思われますか?
A : インスリン分泌系の薬剤は、ある意味、進化し尽くした感もあるので、今後の展開には時間が必要と思われます。これからは、肥満を解消する作用によってインスリン抵抗性を改善する薬剤に期待したいですね。アディポネクチン作動薬などにも関心を持っています。今後はインスリン抵抗性改善を主体として、β細胞を保護しながら治療できるようなものが主流になるでしょう。


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