vol.1 JAMP研究
新患および既存糖尿病薬効果不十分な2型糖尿病患者に対するシタグリプチン投与による血糖コントロールへの影響に関する調査
( Januvia Multicenter Prospective Trial in Type2 Diabetes )
●研究概要
東京女子医科大学を中心とする70施設の多施設共同研究。多くの実地臨床医が参加した。 新患および既存糖尿病薬で血糖コントロールが不十分な2型糖尿病患者(n=779)に対して、シタグリプチン50mg/日を追加投与し12ヵ月フォローアップを行った。研究開始から3ヵ月間はシタグリプチンを含む切り替え時の治療を継続し、3ヵ月目以降は主治医判断によりシタグリプチンの増量または糖尿病治療薬の処方変更を可能とした。主要評価項目は、治療開始時から3ヵ月後のHbA1cの変化量、副次評価項目は、治療開始時と1、3、12ヵ月後におけるHbA1cの正常化率(<7.0%)、空腹時血糖正常化率(<130mg/dL)など。シタグリプチンを用いた血糖低下療法の有用性が高い患者群を検索するため、治療期間終了後に探索的解析として、併用薬別、合併症別などの層別解析を実施した。ヌーベルプラスリサーチマネジメントオフィス(RMO)は、研究事務局として研究進捗管理を行ったほか、データマネジメント、解析、論文投稿事務を担当しました。
●論文筆頭著者インタビュー
佐倉 宏 先生東京女子医科大学東医療センター内科教授
Q : JAMP研究の新規性について教えてください。 A : DPP-4阻害薬の有効性と安全性の報告はいろいろありますが、シタグリプチン追加投与の効果を7種類の前治療薬別に比較した点が、本研究の特徴のひとつです。 Q : 前治療薬別の解析から、どのようなことが明らかになったのでしょうか。 A : 全体では3ヵ月後のHbA1cは0.73%有意に低下し、HbA1c<7.0%達成率は開始時の15.3%から3ヵ月後の53.1%に、空腹時血糖<130mg/dL達成率は開始時の21.1%から3ヵ月後の50.9%に有意に増加し、シタグリプチン追加投与による血糖コントロールの改善が示されました。一方で、前治療薬との関連を検討した多変量解析から、前治療薬がグリメピリド中用量(1.5~2.0mg/日)群でHbA1cの低下が小さいことが示されました。一般に、開始時のHbA1cが高いほど治療による低下効果が大きくなりますが、グリメピリド中用量併用群は開始時のHbA1cが8.24%と高いものの3ヵ月後のHbA1cは7.59%と、他群に比べて低下効果は限定的でした。 Q : この結果をどうとらえますか? A : グリメピリドは低用量から開始して徐々に増量するので、中用量投与の症例は、血糖コントロールが困難なため増量が必要であったと推察されます。つまりコントロールしにくい症例であり、中用量を用いても開始時の血糖値が高めであることは、既に膵臓の疲弊が進行しているとも考えられます。したがって、シタグリプチンでなく、他の糖尿病薬を併用した場合でも同様の結果になった可能性があると考えています。また、この解析だけでは十分に把握しきれない他の因子があることも念頭に置くべきでしょう。 Q : 今後、日本の糖尿病治療はどのように変わっていくとお考えでしょうか。 A : 糖尿病治療の基本は食事療法と運動療法であることに変わりはありません。これらが十分実行できなければ薬剤の効果は限定されてしまいます。しかし、DPP-4阻害薬に続いてGLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬が登場して選択肢が増えたことで、日本の糖尿病治療は着実に進歩していると思います。今後、臨床研究を通じて、どの治療法がどのような病態に適するかをより明確にすることで、さらに血糖コントロールが容易になることを期待しています。
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