vol.2 JAMP研究サブ解析
2型糖尿病高齢患者に対するシタグリプチン投与の有効性と安全性および併用薬剤別血糖降下作用の比較
●研究概要
JAMP研究(Januvia Multiceenter Prospective Trial in Type 2 Diabetes)では、食事・運動療法のみ、または食事・運動療法と既存糖尿病治療薬でコントロール不十分な2型糖尿病患者を対象に、シタグリプチン(50mg /日)を追加投与して3ヵ月後のHbA1cの変化を比較した。本研究はそのサブ解析として、高齢患者に対するシタグリプチンの有効性と安全性を検討したものである。 65歳以上の高齢糖尿病患者319例のHbA1c値は、治療開始3ヵ月後にはベースラインに比べて-0.50%~-0.87%の範囲で変化した。このとき併用していた既存糖尿病薬の種類によってHbA1c値の変化に有意差は認められなかった。 また、3つの年齢群(75歳以上、65~74歳、および65歳未満)で比較したところ、ベースラインから3および12ヵ月後のHbA1c値の変化には、年齢群による有意差は認められなかった。さらに重回帰分析から、ベースライン時のHbA1c値が高い患者はHbA1c値がより低下する傾向があり、トリグリセリドが高い患者はHbA1cが低下しにくいことが示された。高齢者319例のうちシタグリプチン単剤群の1例で低血糖が認められた。 ヌーベルプラスRMOは、研究事務局として研究進捗管理を行ったほか、データマネジメント、統計解析、論文投稿事務を担当しました。
●論文筆頭著者インタビュー
宇治原 典子 先生東京女子医科大学附属成人医学センター准教授
Q : 今回は、高齢者を対象とした解析ですが、最初に高齢者の糖尿病の特徴と、この研究の意義について教えてください。 A : 一般に、高齢者は腎機能が低下していることが多いのが特徴です。腎機能が低下すると、薬剤投与時に薬が蓄積しやすく、副作用が出現しやすいのです。さらに、高齢の糖尿病患者さんでは低血糖状態になりやすいとの報告もあるほか、患者さん本人の低血糖の認知機能も低下していることが多いので注意が必要です。そこで、今回の解析では、既存の糖尿病治療薬併用下で、高齢者にもシタグリプチンが安全に使用できるか、また年齢層によってその効果の違いが認められるかを検証しました。 Q : 検証の結果は如何でしたか。 A : ベースラインから治療開始3ヵ月後のHbA1c値の変化は、-0.50%~-0.87%の範囲でした。併用薬の種類によってHbA1c値の変化に有意差はなく、 3つの年齢群(75歳以上、65~74歳、および65歳未満)での、ベースラインから3ヵ月後および12ヵ月後のHbA1c値の変化にも有意差は認められませんでした。この結果は概ね予想通りの印象で、シタグリプチンは高齢患者において、併用薬の種類や年齢によらず効果を発揮しました。 Q : 今回はシタグリプチンを用いた研究ですが、これらの結果から、DPP-4阻害薬の高齢糖尿病患者への適用についてはどのようにお感じでしょうか。 A : 副作用が少なく、低血糖を起こしにくいため、高齢患者に適用しやすい薬剤という印象です。本研究の低血糖発現は、高齢者319例のうち、シタグリプチン単剤群の1例でしたし、その他の有害事象で因果関係が否定できなかったものは、貧血1例でした。肝機能や腎機能について、薬剤との因果関係が否定できない有害事象はありませんでした。 また、先にも述べましたが、他の糖尿病治療薬に併用した場合でも、併用治療薬の種類によってHbA1c値の低下効果に差がない点はメリットだと思います。個人的には、高齢患者での第一選択になりうる薬剤と感じています。 Q : 本研究では検証されていませんが、近年注目されているSGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬との、高齢患者での併用についてはどのようにお考えですか。 A : SGLT2阻害薬は、インスリン分泌を増やさず低血糖も起こしにくいといわれますから、DPP-4阻害薬との相性はよいかもしれません。今後の両剤の併用効果の検証に期待しています。 Q : 今後の日本の糖尿病治療の展望についてお聞かせください。 A : 急速に高齢化が進行する日本では、この先、高齢者がますます増加し、高齢者の糖尿病も増えることになります。先述のように、高齢者は薬剤が蓄積しやすく、副作用が出やすいため、まずは、糖尿病を増やさないように、より一層、予防に力を入れる必要があります。そのうえで、糖尿病治療が必要になった場合の治療選択ですが、様々な糖尿病治療薬が登場しています。しかし、高齢者は一度に多くの薬剤は併用しにくい。このため腎機能や認知機能など各個人の状況をきめ細かく見極め、より慎重に薬剤を選択することが、これまで以上に求められるようになると考えています。
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