vol.4  JAMP研究サブ解析

シタグリプチンが腎機能に及ぼす影響についての検討

●研究概要

JAMP研究(Januvia Multicenter Prospective Trial in Type 2 Diabetes)では、食事・運動療法のみ、または食事・運動療法と既存糖尿病治療薬でコントロール不十分な2型糖尿病患者を対象に、シタグリプチン(50mg /日)を追加投与して12か月間経過観察し、3ヵ月後のHbA1cの変化を比較した。本研究はそのサブ解析として、腎機能との関連性を検討した。対象患者を推定糸球体濾過率(eGFR;mL/min/1.73m2)および尿アルブミン/クレアチニン比(UACR;mg/g・Cre)の変化量によって層別し、多変量回帰分析によって3ヶ月後のeGFRに影響する因子を調べた。
登録された患者779人のうち、本研究の対象者は585人であった。ベースラインのeGFRで層別に解析を行ったところ、90以上の患者と、60以上90未満の患者で、3ヶ月後および12ヶ月後にeGFRの有意な低下が認められた。一方、eGFRが45以上60未満の患者および30以上45未満の患者では、eGFRが3ヶ月後および12ヶ月後に増加する傾向があった。ベースラインのUACRが30mg/g・Cre以上の患者では、3ヶ月後にUACRが有意に減少した。多変量回帰分析から、3ヶ月後のeGFRの低下要因として、ベースラインeGFRが高いこと、UACRの低下が大きいことが示された。
ヌーベルプラスRMOは、研究事務局として研究進捗管理を行ったほか、データマネジメント、解析、論文投稿事務を担当しました。


●論文著者インタビュー

朝長 修 先生
医療法人社団ライフスタイル ともながクリニック糖尿病・生活習慣病センター院長
朝長 修 先生1

Q : 今回の研究はシタグリプチンの腎機能に及ぼす影響を検討していますが、そのご意義を教えてください。
A : DPP-4阻害薬を使用すると、腎機能が下がる、eGFRが低下するとの報告があるなかで、「本当にそうだろうか?」という疑問がありました。腎機能低下例で腎機能が悪化するのではなく、eGFRが高い例でhyperfiltrationが解除されることで一時的にeGFRが低下するのではないかと考えていたからです。今回の研究で、シタグリプチンが腎機能を悪化させるとは必ずしも言えないことが分かりました。この意義は大きいと思います。

Q : 論文ではDPP-4阻害薬の直接的な腎保護作用の可能性について言及されていますが、実際のところ、腎機能改善効果はあると思われますか。
A : 血糖値の改善に伴って、腎機能が改善された可能性はあるでしょう。軽度の腎症であれば、血糖値の改善だけでも治りますから。動物の基礎実験で、腎臓への直接効果を示した報告もありますが、まだヒトでの十分な根拠があるとは言えません。臨床医の立場からすると、患者さんの状況によって、様々な薬剤や食事療法なども組み合わせているため、関与する要素が多く、ひとつの薬剤の腎への影響を断言するのは、なかなか難しいですね。

Q : 腎保護を視野に入れた糖尿病治療で心がけていらっしゃることは何でしょうか。
A : 早期発見、早期治療です。糖尿病性腎症は早期に手を打てば、透析にならずに済みます。そのためには、尿中アルブミンを定期的に測定することで早期発見し、RAS阻害薬を使って早期治療をし、腎症の芽を早いうちに摘むことが重要なのです。特に糖尿病の患者さんでは、尿中アルブミンを定期的に測るべきと考えています。
また、SU剤やインスリン分泌を刺激する薬剤を投与すると、腎機能が悪い場合、薬剤の排泄が遅延してしまい、低血糖が起こりやすくなります。この場合、食欲が増すので、食べすぎにつながり、タンパク質制限がうまくいかなくなるおそれがあります。腎機能が低下した方に、食欲を増進する薬剤を使う場合には、十分な注意が必要だと思います。

朝長 修 先生2 Q : 食事療法のお話が出ましたが、患者さんはしっかり守ってくださいますか。
A : あまり守ってもらえませんね。でも、それは当然のことで仕方ないと思います。患者さん全員が完璧に守れたら苦労はないですから。治療を担当する医師は、それを見越して治療法をコーディネートしています。糖尿病は長くつきあう病気です。患者さんと話して、無理なく続けていけそうな治療法を、患者さんの個性にあった方法や伝え方で提案しています。そのために、患者さんとは毎回、密にコミュニケーションをとるようにしています。

Q : これからの糖尿病治療で、重要なのはどのような点でしょうか。
A : 生活習慣指導です。今後、どんなに良い薬が出ても、再生医療などを駆使しても、食事療法などができていなければ、治療効果はあがりません。当院では診察時にじっくり会話をするだけでなく、管理栄養士が栄養指導をするなど、一人一人にあった食事のアドバイスをしています。
私は、糖尿病の患者さんでも糖尿病のない方と同じように人生を歩んでほしい、と考えています。糖尿病は上手につきあえば、そこまで怖い病気ではありません。一般の方々でも糖尿病の知識が増えてきましたが、その一方で受診が遅れてしまったケースなども散見されます。もっと早く治療していれば…と思わされることもあります。敵をよく知ってもらい、侮らないことが大切だと思います。その上で、早期発見のための検査を受けていただくことや、糖尿病になってしまったら、自分に合った無理のない治療を実践して、うまく病気とつきあうことを心がけていただきたいと思っています。


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